西風の戦記
この作品は、田中芳樹さんの作品の中でも比較的読まれてない方が多いかも知れませんね。いえ、書店に置いてある例が少ないだけで手に入らないわけではないので、ぜひともまだの方には一読をお勧めします。
田中芳樹作品にはアルスラーン戦記やマヴァール年代記のように異世界での出来事を綴ったものが幾つかありますが、この西風の戦記もまた俗に言うところの異世界ものの一つです。
どうでしょう、内容については、自転地球儀世界シリーズを思い浮かべていただければ良いかと思います(こっちも読んでない方については…、とりあえず完結してる西風の戦記を進めたいなぁ)。つまり、主人公が異世界に飛ばされちゃうお話なんです。
一般に、主人公が異世界に飛ばされるっていうお話は、その世界に無知な主人公の目を通して読者が世界を感じていけるんで、すんなり物語に入っていけますよね。でも、それだけではなくて、異世界に飛ばされる主人公が二人登場して、それぞれが対立する二つの陣営に飛ばされちゃうってところがこの作品の特徴ではないでしょうか。これによって、その異世界を見渡す視点を読者に多く与え、もう一方で、対立する二つの陣営の緊張感を読者に強く訴えることが出来てるんだと思うんです。
そうそう、偏差値や校則なんかで縛られた生活に飽き飽きしてた永井香澄と池畑史朗の二人の主人公が、異世界で自分のやりたい事、したい事に気づいていくっていうところも大好きな点です。あっ、これは自分の高校生活なんかとも深く関わってそうですが、厳しい校則のもと、常に成績を気にしなけりゃいけなかった高校生活なんて全然楽しくなかったですからねぇ。自分が社会で本当に役に立つって事を見つける事が出来ないでいた高校時代に、たとえ異世界であったとしてもそれを見つける事ができた二人がうらやましかったのかもしれません。
p.s
「西風の戦記」の初版発行から既に7年が過ぎようとしています。しかしながら、最近の相次ぐ自殺報道を見るにつけ、この二人を異世界に行かせたものは、どうやらまだまだ健在なのだと強く実感させられます。
12月18日 斎田 秋水
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